第13回 総会・研究大会


【プログラム】

日程:2011年6月26日(日)

会場:法政大学 市ヶ谷キャンパス 富士見坂校舎 F309 (キャンパス・マップ

〒102-8160 東京都千代田区富士見 2-17-1


12:00~

受 付

12:30~12:50

総 会

13:00~16:25

研究発表 (発表30分、質疑応答15分)

16:40~17:55

特別報告

18:30~

懇親会 (於 アルカディア市ヶ谷(私学会館)7F「白根」)



【研究発表 要旨】

演劇における翻訳・台本作成の問題

―― 静岡県舞台芸術センター『ドン・ファン』公演(2009年、2011年)の例から ――

芳野 まい

ひとつの演劇作品を作り上げるさいには、創作や制作、あるいは鑑賞に関わる人間の立場のあいだにさまざまな「ずれ」が生まれる。「外国語から日本語への翻訳→日本語から日本語への台本作成」の作業には、元の台本の言語の構造と日本語の構造のあいだのずれ、元の台本の文化と日本語上演の環境(劇場・観客)を支える文化のあいだのずれ、翻訳(台本以前のもの)と演出意図のあいだのずれ、日本語翻訳と俳優の演技とのあいだのずれ、などがあらわれる。本発表では、そうした「ずれ」のうちのいくつかの内容と、「ずれ」が台本作成作業にどのように発展的に取り込まれていくかを、発表者自身が翻訳者・台本作成者として立ち会った、ひとつの戯曲の日本語版台本作成の記録を通して、検証していく。


19世紀末ベルリンにおける絨毯収集家とオリエント研究の進展

田熊 友加里

ウィーン万博(1873年)における「ペルシア絨毯」の登場以降、オリエント産絨毯は従来の貴族のみならず、新興のブルジョワジーの間においても、異国情緒溢れる高級インテリアとして脚光を浴び、一大絨毯ブームといわれる状況をもたらした。同時期のドイツにおいては、18世紀以前に織られたアンティーク絨毯の織り技術・図柄・制作年代等を歴史学的に解明しようとする新しい試み(「絨毯研究」)が、ベルリン美術館館長Wilhelm Bodeらによって始められた。「絨毯」は従来の「美術鑑賞品」から、ヨーロッパ人が未知なるオリエント地域を分析するための「研究題材」へと変容を遂げたのである。

他方で、Bodeをはじめとする絨毯収集家からの寄贈により、ベルリン美術館は1904年にヨーロッパで初となるイスラーム部門の創設に成功した。収集家の中には、オリエント地域での美術品収集や発掘調査に直接乗り出す人物も現れた。例えば、ベルリン出身のユダヤ系綿織物商人James Simonとその一族は、Bodeと共同でドイツオリエント考古学協会を立ち上げ、膨大な資金を中近東における発掘調査に投資した。このようなサイモン一族による中近東への積極的な関与の背景には、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世との親密な関係がうかがえる。本報告では、Simon一族がヴィルヘルム2世時代(1888~1918年)におけるオリエント研究にどのような形で関与したのか、ベルリン美術館や皇帝との関係を踏まえて考察したい。


中津川興風学校の学校衛生

―― 近代学校における明治初期の衛生/教育 ――

高橋 裕子

中津川興風学校は、平田国学の門人らが中心となり、近代学校教育制度に先駆けて、義校方式で創始された学校である。島崎藤村の『夜明け前』にも描かれているように中山道・中津川宿には平田国学門人集団が存在し、維新前後には、周辺地域の政治的経済的文化的な磁場の役割を果していた(宮地1999)。同校の『学校日誌』を検討したところ、明治12年のコレラ大流行に対し、学校管理者(=設立者)と教員らが会議を開き、衛生か教育か、子どもの健康保護責任は学校か家庭か、など、現代の学校衛生論にも繋がる問題を取り上げ、独自の対策を決定し、郡庁に報告していた。会議の中で、教育と衛生をどう両立させるのかといういわば学校衛生課題を「判者」として裁き、議決に導いたのは、教員の筆頭・小林廉作であった。廉作は、地元の寺子屋師匠ではなく、版籍奉還により職を失った士族が教師として採用された例で、青年期は木曽福島の「青莪館」で武井用拙(昌平黌出身)を師に、いわゆる藩校教育を受けていた。

この地域の知識人らによる学校作りを背景としてさらに検討を深めれば、政府による学校衛生制度以前の、地域の近代学校づくり推進上の衛生/教育という新たな一面を明らかにすることができると考えている。


グローバル化する社会と宗教の語り

小林 紀由

この発表はグローバル化する社会において、「宗教をいかに語るべきか」を問おうとするものである。

この発表においては、グローバル化を「市場の世界化」(市場の国家管理からの越境的離脱)と、その結果もたらされる国民国家の相対化を特徴とする現象ととらえ、それにより引き起こされつつある新たな世界の体制に適合し、かつそのある種の動向に抵抗しつつ、新たな世界をより良きものとする努力に貢献し得る宗教の語りを模索する。それは、集団的アイデンティティを表象する象徴とその象徴をめぐる儀礼とによりもたらされる統合の在り方、そのようにしてもたらされる共同感情に依拠した社会統合の在り方を宗教ととらえ、これを克服することにより、脱宗教化した社会(ポスト宗教的社会)の在り方を模索しようとするものである。

この発表においては、「多文化主義」をめぐる議論を手がかりとする。多文化主義が歴史的に差別を受けてきたマイノリティの権利回復に寄与する面をみとめつつ、文化を実体視し、集団間の差異を固定化する傾向を克服し、宗教的に構築された共同感情に依拠するわけではない社会の在り方を模索する端緒としたい。



【特別報告】

「危機」を管理する:高信頼システムの実現と運用のための基本

林坂 弘一郎

本講演ではまず、危機を未然に防ぐための技術として、情報システムの高信頼化を実現するための設計思想を基本に立ち返って議論する。具体的にはフォールトトレランスなどの高信頼化技術とシステムの信頼性評価、信頼性の要求水準とコストについて考える。更にシステムの開発段階や運用段階で発生する危機への対処方法を議論する。システム開発工程と危機を乗り切るためのプロジェクトマネジメント手法、および危機に対する事業継続計画についても考える。




第13回総会

2011年6月26日 於 法政大学







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