第12回 総会・研究大会


【プログラム】

日程:2010年6月20日(日)

会場:昭和女子大学 研究館7F視聴覚教室(K7L04)

〒154-8533 東京都世田谷区太子堂 1-7


12:00~

受 付

12:30~12:50

総 会

13:00~14:35

研究発表 (発表30分、質疑応答15分)

14:45~16:30

シンポジウム

16:40~17:40

特別講演

18:00~

懇親会 (於 il Piatto)



【研究発表 要旨】

医療過誤による医師法21条の届出義務と医師の職務倫理

西島 裕行(日本大学)

現代医療の治療法は、医療技術の専門細分化ないし高度化により、医師単独というよりも医師共同によるチーム医療へと変化してきている。それにともない近年では、チーム医療が社会的・国民的に関心を高めている。当然、チーム医療においては、医療スタッフによる意思の疎通が明確になっていなければならない。それにもかかわらず、現状では、医療過誤(医療ミス)が後を絶たない。その場合、責任の所在が不明瞭になっている事例も少なくない。実際に、通常では考えられないような単純ミスをして患者を死なせてしまった事例もある。今後このような医療過誤を再発させないためには、問題点を把捉し、解決策を整備することが必要である。

本発表では、平成11年2月に起きた医療過誤事件(都立広尾病院事件)における病院の対応及び医師の対応について検討したい。それは、チーム医療における医療過誤に対しても、主治医が医師法21条の届出義務を有するのかという問題である。さらにそれが、医師の倫理に反しないのかという点を踏まえながら、医師法21条でいう届出義務の要件と医師の職務倫理の関係について検討を試みたい。


名所の記憶

―― 絵画イメージと現在の風景 ――

永田 真紀(多摩美術大学)

古歌に詠まれた名所歌枕。その美しい自然景観を賞翫し、人々は和歌に詠み、能に舞い、絵画化した。神話や伝説などの歴史物語が幾重にも重なり、土地のイメージは様々に表現されてきた。

本発表では、名所のうち天橋立と和歌浦を例に検証する。この二つの名所は、白砂青松、砂州という海浜の景観にも共通性がある。さらに、周辺地域には寺社が多く、信仰の聖地でもあった。しかしながら、二つの名所は、近世から現代に至るまで、風景と名所の有り様が大きく変化するのである。和歌浦の場合、為政者による政治的な名所整備によって風景が大きく変貌した。それと同時に人々の名所観までもが変化していった。他方の天橋立では、中世までのイメージが継承されてきた。そこで、名所風景と名所観の変化について絵画イメージをもとに考察してみたいと考える。

さらに、それらの歴史的背景を踏まえて、現在でも問題が深刻化している消えゆく砂州ついても考えてみたいと思う。



【シンポジウム】

都市空間の「美的活用」

コーディネーター(司会)___ 笠松 幸一(日本大学)

われわれの生活(都市)空間は、経済効率優先の元で活用され、それにそぐわない「美的」なもの(経済的合理主義とは異なる価値)は、居場所を失っていくかのように見える。しかし、われわれの生き方にとって、「美的」要素は不可欠なものではないだろうか。さらに、「経済利益の追求」のなかにも、むしろ、ある種の「美的」な価値が組み込まれているのではないか。

本年度シンポジウムでは、昨年度の問題意識を引き継ぎ上記の問題について議論したい。


広告のデザインは都市空間の「美」となり得るのか

パネリスト___ 関 哲洋(兵庫県立大学)

デザインは生活社会のあらゆる側面に関与している。例えば、生産物を対象とする製品デザイン、製品の情報を伝達する情報デザイン(視覚伝達デザイン)、製品を使用する生活空間のデザイン(環境デザイン)など、概ね3つのデザイン領域が考えられている。

都市空間に見られる屋外広告(ディスプレイ、ポスター、看板など)は、ある意味ではこうしたデザインの3領域の総合による表現だともいえる。

広告は、あくまで製品、イベントなどの情報を伝える手段であるが、同時に広告そのものが生活環境の一部ともなる。時にある種の広告は、そのけばけばしさから、環境、景観を破壊するものと糾弾され、時には、活動的都市空間の「華」として受け入れられる。われわれの生活空間にとって広告が「美」として受け入れられる要件とはなにか、検討してみることとする。


ライフスタイル後進国日本と無秩序の都市空間をどうする!?

パネリスト___ 長谷川 功(文化ファッション大学院大学)

いまファッション界では、いや門外漢でさえ“ファストファッション”という言葉を知らない国民は少ない。高度情報化社会は、恐ろしく早い情報→行動→消費の繰り返しを招き、ファストフード→ファストファッション→ファストライフ・・・と続く。しかしながらこれらは自ら国民が選択した結果でもあろう。良くも悪くも「ファッションデモクラシー時代」だ。

この要因は私見ではあるが、日本人が戦後、全うなライフスタイルを築こうとしなかったことに起因する。経済成長最優先の官民一体の“失われた50年?”は従って“ライフスタイル後進国”を築いてしまった。

高度な技術力、勤勉さ、丁寧さといった日本人の精神美を、カテゴリーを超越した国家的ライフスタイルプロジェクト主導のもと、都市景観、都市生活、都市文化に生かすことを条件に「都市空間の美」が出来る。都市を幾つかの界隈に分けてその“界隈美”を創りあげたい。


生活とファサード

パネリスト___ 篠原 聡子(日本女子大学)

人が暮らす気配は、都市景観を豊かにする。人の暮らしの気配のない都市からは、活力も「美」も感じられない。しかし、マンションのバルコニーにかけられた洗濯物の一群は、まぎれもなく人の暮らす気配を表出しているが、都市景観の「美」とは、言いがたい。本来個々人の生活と都市の景観を調停するはずの建築のファサードが、「洗濯物を干す」という生活行為をないものとし、また、核家族が都市との多様な接続のコードを消去してしまったように、マンションの住戸における核家族の生活も、パブリックへの表出となるはずのバルコニーを完全に私的領域の奥化してしまった。

人の暮らしを包摂しつつ、都市の「美」となるような、建築のファサードについて考えてみたい。



【特別講演】

禅の「十牛図」と森田療法

―― 悟りとは?そして治癒とは? ――

岡本 重慶

森田正馬が創案した森田療法の核心には、仏教、とくに禅の叡智が含まれている。しかし近年本療法の普及に伴い、その核心部分が忘れられがちになった。禅と森田療法の関係についての再認識が求められるゆえんである。そこで禅の代表的な教本の「十牛図」をてがかりに、禅における「悟り」と森田療法における「治癒」の関係について述べる。


岡本重慶(京都大学医学部卒、医学博士、総合社会科学会前代表)氏は精神科医として、京都三聖病院で森田療法による治療に当たられると同時に、仏教大学臨床心理学科教授として長年にわたり教育に携わってこられました。2008年同大学を定年退職後も現在にいたるまで同大学大学院教育学研究科臨床心理学専攻の非常勤講師をつとめられる一方、海外、特にフランス医学会との交流を通じ、日本独自の療法の紹介に努めておられます。



第12回総会

2010年6月20日 於 昭和女子大学







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