第14回 総会・研究大会


【プログラム】

日程:2012年6月17日(日)

会場:昭和女子大学 研究館 7F視聴覚教室(K7L02)(アクセス、キャンパス・マップ

〒154-0004 東京都世田谷区太子堂 1-7


12:00~

受 付

12:30~12:50

総 会

13:00~16:25

研究発表 (発表30分、質疑応答15分)

16:40~17:55

特別講演

18:30~

懇親会



【研究発表 要旨】

コメニウスの構想した学校教育に関する一考察

―― コメニウスの学校教育理念を基にしたカリキュラムに焦点を当てて ――

笹川 啓一

近代教授学の父と呼ばれるコメニウス(Comenius, J.A. 1592-1670)について、これまで「楽しさ」をキーワードとして幾つかの問題を論じてきた。本発表では、『大教授学(Didactica Magna, 1657)』に焦点を当て、彼の教育理念及び教育目的から見た具体的な学校像を検証したい。それによって、単に教育方法としてのみならず、今日の教育学において彼の教育思想が未だに有意義であるか否かの検討が可能となるのではないだろうか。

そこで、教育学の領域においてコメニウスが最も評価されていると考えられる初等教育機関である「母国語学校」について、コメニウスの教育理念とそれに基づく具体的なカリキュラム――即ち教育目標と教育内容および教育方法――を考察することで発表を進めたい。なぜなら、コメニウスが重要視した「母国語学校」に関する記述にこそ彼の教育理念が具体的に述べられていると考えたためである。本研究によって今まで進めてきた教育における「楽しさ」の意義を更に明らかにする一助としたい。


ロックの蓋然性の探究における「自制」の意義

―― パスカル『パンセ』と比較して ――

瀧田 寧

本報告では、ジョン・ロックの『人間知性論』第4巻後半における蓋然性の探究者のあり方を取り上げる。ロックはそこで、認識の限界に起因する無知のため誤りに陥っていると思われる他者に対して協力の手を差し伸べる際には、「慈しみ合いと自制」が重要であることを強調する。

ところで、認識の限界に起因する誤りに陥っていると思われる他者に対して配慮ある説得を行う方法については、同時代のパスカルもまた、『パンセ』に収録された断章の中で述べている。ロックは、『パンセ』をはじめパスカルのいくつかの著作を所有していた。本報告では、ロックがパスカルから受けた影響については言及する余裕がないが、両者が同じような場面で、すなわち誤りに陥っていると思われる他者に手を差し伸べるという場面で、そのような他者とどのように接するべきだと論じているのかを比較し、パスカルの「説得」とロックの「自制」の意義を対比する。その上で、ロックにおける「自制」という、いわば忍耐が、どのようなことを前提として主張されるのかを考察することにより、ロック哲学の持つ、これまであまり注目されてこなかった特質を明らかにしたい。

なお、認識の限界に起因する無知については、『人間知性論』の続編に位置付けられている『知性の導き方』の方にも重要な主張が展開されているので、本報告では『知性の導き方』も考察の対象とする予定である。


自転車事故の交通道徳と法的対応

西島 裕行

自転車は、国民にとって身近でかつ便利な交通手段であり、多くの人々に利用されている。近年CO₂を排出しないというエコロジカルな点が見直され、健康意識の向上と相まって、自転車利用者がとみに増加している。さらに、2011年の東日本大震災の影響により、自転車の機動性も注目されている。しかしその一方で、自転車の利用者の中には、自己中心的な危険な走行や悪質なマナー違反をする者もおり、見逃すことのできない社会問題となっている。道路交通法において自転車は、軽車両に位置付けられており、自転車利用者は、車両に関する交通ルールを遵守しなければならない。つまり、人に対してけがを負わせたり、死亡させたりしてしまえば、当然、刑事責任や民事責任に問われることになるのである。実際の事故件数をみると、平成22年度における自転車関連の交通事故は、15万1626件となっており、交通事故件数全体のおよそ20%を占めていて、この割合をみても決して軽視することのできない問題であると思われる。

本発表では、自転車事故の要因として、現代の日本人における道徳の低下の問題を再考し、事故を起こした場合の法的対応について考察していきたい。


観光活性化に資する地域のアイデンティティーに関する経済効果について

石川 修一

地域のアイデンティティーとはその場所の特殊性を象徴するものである。ツーリスト・デスティネーション地域が多くの来訪者を惹きつけるには、その地域固有の特殊性に裏打ちされた本物を提供しているかどうかであるといわれる。

地域がどのようなアイデンティティーの持ち方をすると有効か。例えば、その地域にある遺跡、景観、自然、食などの資源によってどのようにイメージを形成すると有効かに向けた考察をする。



【特別講演】

「女性、政治、文学」

クリスティーヌ・レヴィ
司会:高頭 麻子

近代日本のフェミニズムの運動は、100年前の1911年に創刊された、平塚らいてう らの『青鞜』から始まったと言えるであろうか。当初は女性だけで編集・執筆する文学雑誌だったが、有名な「五色の酒」、「吉原探訪」事件などから、「新しい女」たちは酒や遊郭遊びをするとは何事か、とマスコミで非難を浴びたのをきっかけに、自ら「新しい女」を模索し、母性論争や貞操論争など、次々に女の問題を真剣に議論するようになったのである。

欧米でも19世紀末から「新しい女」の運動が始まっていたが、イプセン(1828-1906)の「人形の家」を始めとする芝居は、出身国ノルウェーの結婚制度における女性の地位を変える政治キャンペーンの端となり、また、多くの国で検閲にかけられたにも関わらず、世界中に大きな影響を与えた。日本でも新劇はイプセンから始まり、『青鞜』でも度々論じられたが、日本での受け取り方は欧米とは異なっていた。また中国でのイプセンの受容も日本よりも政治的な側面が濃く、5・4運動の独立運動の主体的役割を果たした。

近代日本の政治と文学の問題を女性という切り口から検証することによって、今日の日本の女性問題のあり方や、政治と文学との関わりについて、見直すきっかけになればと考える。


講演者紹介: Christine Lévy [ ボルドー第3大学教授(日本近代思想史)]

クリスティーヌ・レヴィ教授は、現在日仏会館研究員を兼務、ここ 3年 日本-フランス両国で研究を続けておられるほか、多くのシンポジウムのパネリストとして近代日本社会の諸問題、特に女性問題について積極的な提言を行っておられる。

また、幸徳秋水、中江兆民の著作の翻訳を通し、海外への日本近代思想の紹介にも努めておられる。現在「青鞜」の女性解放に関する論文の紹介をフランス語で準備中である。



第14回総会

2012年6月17日 於 昭和女子大学







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