第21回 総会・研究大会


【プログラム】

日程:2019年6月30日(日)

会場:日本女子大学 目白キャンパス百年館高層棟4階マルチメディア1教室

〒112-8681 東京都文京区西めじろ台2-8-1

アクセス・マップ

※ 会場へは、上記キャンパス・マップをご参照ください。


11:00~

受 付

11:30~12:50

研究発表/午前の部 (発表30分、質疑応答10分)

   11:30~12:10

ケベック文学における英系-アンヌ・エベールの小説を中心に

 

佐々木菜緒(明治大学大学院)司会:関 未玲

   12:10~12:50

日本におけるフランス語圏カリブ海音楽受容:「ズーク」を中心に

 

渡邉未帆(早稲田大学)司会:西脇雅彦

12:50~13:30

休 憩

13:30~16:20

研究発表/午後の部 (発表30分、質疑応答10分)

   13:30~14:10

大西洋貿易時代のフランスからみる食糧問題

 

空 由佳子(日本学術振興会)司会:奥 香織

   14:10~14:50

観光巡礼地ルルドについて

 

羽生敦子(立教大学)司会:寺戸淳子

14:50~15:00

休 憩

   15:00~15:40

月と太陽の文化史-暦の神話学を中心に-

 

木内英実(東京都市大学)司会:臼杵悦生

   15:40~16:20

大西永次郎の学校衛生論の転換

 

-総力戦体制、厚生省の新設からの検討-

 

高橋裕子(天理大学)司会:廣嶋龍太郎

16:20~16:30

休 憩

16:30~17:40

講演会

 

オバマからトランプへ - アメリカ・リベリズムの現在

 

藤永康政(日本女子大学)

17:40~18:00

総 会

18:30~

懇親会



【研究発表 要旨】


(司会:関 未玲)

ケベック文学における英系 --アンヌ・エベールの小説を中心に

佐々木 菜緒(明治大学)

北アメリカ大陸の「英語の海の孤島」に例えられる地域ケベックにおいて、英系の存在は、しばしば仏系にたいする英語文化への同化の脅威を表象する。伝統的にカトリックであるケベック社会にとって、多数をプロテスタントとする英系は他者であり、文学作品にあらわれる英系の人物は多くの場合否定的に描かれている。これは、特に20世紀半ばまで保守的な価値観に占められていたケベック社会を象徴している。そうした英系像は、アンヌ・エベール(1916-2000)の小説にもあらわれている。実際、英系は主人公が属する世界のよそ者であり、危険な人物像である。しかし、そもそもケベックで英系とはアメリカ人、英国人、アイルランド人など英語話者全般を指し、実はそれぞれの表象に特徴がある。そしてそれぞれの表象と結びついて、エベールの英系はさまざまな形で主人公の運命に決定的な役割を担っている。エベールが書く主人公と英系の関係は、単純な英仏の対立図に還元できるものではなくて、むしろケベック社会に内在した体制的な諸矛盾をあらわしていると考えられる。

本発表では、ケベック文学における一般的な英系の表象を確認したのちに、エベールの小説にあらわれる英系人物の特徴と役割を、主人公との関係に注目しながら明らかにしたい。



(司会:西脇雅彦)

日本におけるフランス語圏カリブ海音楽受容:「ズーク」を中心に

渡邊 未帆(早稲田大学)

日本のリスナーがフランス語圏カリブ海音楽に直接的に接するのは1980年代後半まで待たなければならなかった。世界的な「ワールド・ミュージック・ブーム」がバブル経済真っ只中の日本にも到来し、マルティニーク、グアドループ出身でパリで結成されたグループ、カッサヴによる「ズーク」が「パリ発ワールド・ミュージック」として受け入れられた。

「ズーク」とは、もともとはクレオール語で「パーティ」を意味したが、歌詞の中で「zouker!」と、観客に対して踊りに誘う時に動詞で使われるように、ダンスと切っても切り離せない。彼ら自身の言葉=クレオール語で歌われていることも重要である。それまでも当地で人気を得ていたビギン、カダンス、コンパといったカリブ海の軽く跳ねるようなリズムと、80年代最新のデジタル・シンセサイザーのサウンドを合わせることが、スタジオ・ワークによって具現化可能となり、それが「ズーク」という新たな音楽としてレコードによってパリから世界の市場に放たれたのである。

本発表では、「ズーク」という固有の、強度のある言葉を伴うダンス・ミュージックが、いかに日本で受容されてきたか、今日の状況も含めて考察する。



(司会:奥 香織)

大西洋貿易時代のフランスからみる食糧問題

空 由佳子(日本学術振興会)

食糧問題の解決は、いつの時代においても、共同体の統治において最も重要な課題である。大西洋貿易時代のフランスでは、18世紀後半に保護主義から自由主義へと統治体制の転換がはかられるが、その背景にあったのは食糧問題であった。フランスは大西洋に進出して「植民地帝国」を建設し、イギリスと覇を競う列強に成長する。世界規模での分業体制が成立すると、アメリカ植民地とフランスの後背地の一部では輸出産業が発展し、基礎食糧である小麦などの穀物は王国内の穀倉地帯や外国から取り寄せるようになる。その結果として、不作は食糧危機を幾度となく引き起こし、商人、地方権力、王権がそれぞれの立場から食糧の確保に尽力するなかで、政治と経済の関係が問い直されていく。

本発表では、世界貿易港の後背地にあたるラングドック地方の諸地域を取り上げ、自然環境、経済活動、穀物供給の条件の相違や相互関係を比較・検討することで、18世紀のフランスの食糧問題を世界経済との関わりから理解する。



(司会:寺戸淳子)

観光巡礼地ルルドについて

羽生 敦子(立教大学)

巡礼と観光は広義的な余暇活動であるにもかかわらず長い間峻別され研究されてきた。とりわけ巡礼に関しては、宗教的な含蓄が濃いため、教会史、宗教学、美術史からの視点による研究が主であった。しかし、最近では宗教ツーリズムやスピリチュアルツーリズム、またアニメの人気から「アニメ聖地巡礼」などの単語が一般化し、多様なアプローチはあるものの巡礼と観光とを観光学の中で一元化して研究する視座が潮流である。

発表者はフランスの近代観光に関する研究者であるが、フランスのマス・ツーリズムの嚆矢としてルルド巡礼を事例として提案したいと考えている。昨今、SNSの普及により、「いきなり観光地」と呼ばれる観光地が話題にあがるが、19世紀半ばの1858年に、「マリア出現」と少女ベルナデットによって「いきなり巡礼地」となった巡礼地ルルドの近代性について考察し、これまでの巡礼地とは一線を画すことを報告する。また「マリア出現」から160年経った今日の巡礼地の課題について、文献調査と現地調査から明らかにしていく。



(司会:臼杵悦生)

月と太陽の文化史 --暦の神話学を中心に--

木内 英実(東京都市大学)

日本及び、日本と同じく太平洋民族であるNZの伝承を中心に、太陽と月の文化史を、太陽と月の表象を補助線として明らかにすることを本発表の目的とする。

森銃三『おらんだ正月』(岩波文庫、2003)に記されたように、江戸中期の蘭学者たちが寛政6年11月11日を太陽暦1794年1月1日にあたるという理由から太陽暦の正月を祝った「おらんだ正月」が、日本人にとって、月暦(太陰暦)と区別して太陽暦を意識した最初と言われる。

「古事記」の記録、伊弉諾尊が黄泉の国から戻り禊をした際に左目から天照大御神が右目から月読尊が生まれたとのことより、太陽神と月神は不即不離の関係性として、祭祀の場、伊勢神宮でも共に祀られている。月読尊が暦と農業を司る神であることに対応して月暦(太陰暦)は農事暦として現代でも利用されている。現実的かつ実践的な農業に月暦(太陰暦)が適用される例は、NZのマオリ族の「MATARIKI」(6月最初の新月の日を正月とし植物の栽培を開始する)神話にも見られ、この伝承は絵本を通してNZの子どもたちにも親しまれている。

日本、NZ両国を中心とした世界の太陽と月の文化伝承の様相を、絵本や教科書等、身近な児童向け教材における暦の描写等を通して確認していく。



(司会:廣嶋龍太郎)

大西永次郎の学校衛生論の転換 -- 総力戦体制、厚生省の新設からの検討 --

高橋 裕子(天理大学)

昭和前期の文部省において学校衛生を担当した大西永次郎は、「教育的学校衛生」を主張した。ただ「教育的学校衛生」といっても、昭和初期の学校衛生論と、昭和11年以降の学校衛生論では大きく異なっていることは、これまで看過されてきた。昭和初期には、アメリカのターナーの影響を受けて、生徒個々人の健康教育を教育課程プログラムによって進めると提唱していた。ところが、『全体性と新学校衛生』(1938年、昭和13)では、「国民の健康問題」は「個人の功利的な意図の下に、単に個人の勝手に一任しておくわけにはいかない(中略)政府の重要政策」になった、と「国家」を前面に出し、さらに近衛内閣の下で新設された厚生省との関係性について、「従来文部省の教育行政として取り扱っていた学校衛生の一部は、これを新設の厚生省に移管することになった」ために、文部省に残留した学校衛生は、教育とは「不可分」で「学校教育の内容をなす」と述べているのである。大西は、「国民の体位を向上させること」や健康の強化は「重要国策の一つ」になり、文部省が行う「教育としての学校衛生」の役割は、「養護」「体力向上」や「鍛錬」の点で一層増すと考えていた。

本発表では、大西の学校衛生の目的が昭和初期に「個人」よりも「国家」に転換したことに注目し、その意義について、昭和10年代の政治情勢、いわゆる総力戦体制との関連で考えてみたい。具体的には陸軍が主導した厚生省の設立と学校衛生行政の関わり、大西の「国民の体位の向上」論、さらに鍛練と養護の両面から説いている「学校体育」論を検討したい。



【特別講演】

「オバマからトランプへ --アメリカ・リベリズムの現在--」

藤永 康政(日本女子大学)

2016年大統領選挙でのドナルド・トランプの勝利は、「歴史的な逆転」「予想外の勝利」という言葉で形容されることが多かった。しかし、「歴史的な」「予想外」と一般に形容される多くの事例のご多分に漏れず、少し詳しく検討してみればとりわけて予想外と言えるような出来事ではなく、報告者自身、結果が届いたときには奇妙な納得感すらあったのが実態である。また「歴史的」と言うには、いまはまだあまりにも時期尚早であろう。

本報告では、この選挙(結果)に至る過去半世紀のアメリカにおける「人種政治 (race politics)」を検討することで、現在のアメリカ政治の歴史的な立ち位置を見極めてみたい。アメリカ黒人史を専門とする報告者が特に関心を払うのが、「公民権/ブラックパワー運動の記憶」と「カラーブラインド主義」であり、また「排除」を主な特徴する現代的なレイシズムの特徴をはっきりと映す「アメリカ型刑罰国家の興隆」である。2008年のオバマの勝利は、しばしば「公民権運動の夢の実現」と見られた。本報告の目的のひとつは、なにゆえそれからわずか8年後にトランプがホワイトハウスの主になり得たのか、その逆説的な展開の論理的な解明である。また、本報告では、ブラックライブスマター運動の紹介と検討を通じて、トランプ型の「ポピュリズム」に対抗するこのような社会政治運動がいかなる歴史的で政治的な意味を持ち得るのかも併せて検討したい。


講演者紹介:日本女子大学文学部教授

1999年 東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退

著書:『越境する一九六〇年代--米国・日本・西欧の国際比較』(共著)彩流社、2012年;

『流動する〈黒人〉コミュニティ--アメリカ史を問う』(共著)彩流社、2012年;

『二〇世紀〈アフリカ〉の個体形成--南北アメリカ・カリブ・アフリカからの問い』(共著)平凡社、2011年;

『文化と政治の翻訳学--異文化研究と翻訳の可能性』(共著)明石書店、2010年;

『世界史史料11巻:20世紀の世界Ⅱ』(共著)岩波書店、2012年;など。





第21回総会

2019年6月30日 於 日本女子大学




懇親会

18:30~ 於 Royal Garden Café(目白駅前トラッド・ビル)







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